特定非営利活動法人JUKEは2010年から活動を開始し、14年にわたり中高生・大学生低学年向けのキャリア教育を提供してきました。Your Verseは、団体の成長段階に合わせた組織づくりと、理事メンバーのオーナーシップ醸成を支援。理事長の古川様に話を聞きました。
導入時の状況と課題
- 長年代表理事がほぼ一人で組織を牽引してきた状態から変わっていきたい
- 新たに就任した理事メンバーと、過去の経緯や未来のビジョンを共有する必要があった
- 事業拡大の可能性を前に、組織としての方向性を明確にしたかった
サポート内容(2024年8月〜2025年1月)
- 全3回のワークショップを通じたゴール設定支援
- 心理的安全性を確保した対話の場の創出
- JUKEの活動の本質を言語化・図式化した「戦略ストーリー」の作成

生まれた変化
- JUKEという組織自体に流れる物語(ストーリー)に着目して議論したことで、オーナーなど個々人が主語ではなく、組織が主語となり、向かいたい方向性が決まりやすかった(リーダー頼みではなかった)
- 自分自身についても知る・確認する時間を設けたことで、組織と自分の重なりを確認することができて、自然と役割分担が決まった(オーナーシップが分散した)
- 20~50代の年齢が様々な参加者から主体的に役割を引き受ける声が上がり、オーナーシップの分散が進んだ
- 参加者の組織の本質的な価値に対する共通理解が深まり、ディスカッションがや意思決定プロセスがフラットになった
- 新たな地域展開において、代表以外のメンバーが主体的に関わるようになった
本質を掘り下げ、チームの共感を育む
― 特定非営利活動法人 JUKEの活動について教えてください。
古川様
中高生や大学生の低学年向けにキャリア教育を提供しています。私たちは「観察」と「対話」を重視し、学生が働く大人の姿を観察し、対話を通じて自身の未来を考える「ジョブシャドウイング」という機会を提供しています。親や先生ではなく、第三者の大人と対話することで、心理的なハードルを下げながら自然にキャリアを考える環境を作っています。また、単に職業を紹介するのではなく、「どう生きるか」を考えることを大切にしています。働く大人の価値観や仕事観に触れることで、自分らしい生き方を探求できるようサポートしています。
― Your Verseに相談するきっかけとなった課題感について教えてください。
古川様
JUKEは2010年に活動を開始から、数回の代替わりを経て、私が実質的に1人で理事の業務を務めていました。しかし、行政との取り組みなど団体として活動が広がり始める中で、組織を持続・発展させるために、1人でやり続けるのではなく、理事を複数名向い入れ、チームで運営をしていきたいと考えるようになりました。これまでの活動は「古川=JUKE」という形で進んでいたため、私個人の考えが団体の方向性と結びついていました。しかし、関わる人が増えることで、私個人ではなく、団体としての「共通の価値観」を明確にし、理事全員が納得したうえで意思決定を進める必要があると感じていました。
― Your Verseを選んだ理由はなんだったのでしょうか。
古川様
同様のサービスとの差別化で決め手となったのは、「共感性」の部分です。長谷川さんとは以前から交流があり、JUKEの活動に対する理解も深く、非常に共感する部分が多いと感じていました。Your Verseであれば、ハイコンテキストな部分もうまく言語化していけると思い、依頼することにしました。
― 実際にどのようなサポートを行ったのか、プロセスを教えてください。
杉原(Your Verse)
全3回のワークショップを実施しました。第1回目は2023年10月に開催し、理事メンバー全員がリアルで集まりました。各メンバーが、それぞれの人生をシェアしながら、なぜJUKEの理事を務めているのかを含め、個人の思いを共有する「ストーリーシェア」を丁寧に行いました。その場でJUKEとして向かいたい方向性や課題を議論しましたが、出てきた課題に対して「自分が楽しみながら取り組めるかどうか」という点では迷いの声も聞かれました。

そこで第2回は、JUKEの本質的な部分をより明確にする必要があると考え、古川代表理事と個別に議論を行いました。この議論を通じて「JUKEの戦略ストーリー」を作成し、組織の活動の本質を可視化しました。

第3回では、この戦略ストーリーを基に「皆さんはJUKEの中でどういったことに関わりたいですか?」「どうすればこの循環をさらに良くできますか?」という議論を行いました。印象的だったのは、メンバーから「私がこれやります」という声が自然に上がってきたことです。皆さんが自発的に役割を引き受ける姿が見られ、大きな成果を感じました。

― 支援の前後で、どのような変化がありましたか?
古川様
以前は私が方向性を決め、周囲に声をかけるスタイルでした。意思決定のスピードは早かったものの、関わるメンバーが少なく、活動の広がりには限界がありました。YourVerseの支援により、理事が「自分がこれをやりたい」と主体的に手を挙げるようになり、関わるメンバーが増えました。その結果、新たな地域での活動展開も、私ではなく理事の1人が「やりたい」と主導し、現地とのつながりを築いてくれました。組織として、より持続可能な形に進化できたと感じています。
また、組織の雰囲気も変わりました。以前は業務分担が曖昧で、消極的な空気がありましたが、今では「この役割は私がやりたい」「これは得意だからやってみる」といった前向きな姿勢が生まれています。

― Your Verseが関わることの価値はどこにあると感じましたか?
古川様
私がファシリテーションを担当すると、どうしても参加者が私の顔色を伺いながら話す傾向がありました。Your Verseがファシリテーターを務めることで、私も他のメンバーと同じ立場で議論に参加でき、それによって皆の本音や「やりたいこと」が出やすくなりました。
これまでの理事会では議題設定も私主導でしたが、今回はメンバー全員で議論したテーマが扱われ、フラットな対話が生まれました。今後の理事会でも、「これがJUKEの大切な論点だ」という共通認識をベースに話し合えるようになり、対等な目線での対話が実現しました。
杉原(Your Verse)
一般的なファシリテーター役でもフラットな関係性は作れると思います。ただ、Your Verseでは、参加する個々人の個人的な欲求や目的を人生の振り返りを通して共有し、組織での活動に意味づけを行うことをプロセスとして提供しています。その上で、JUKEの方向性を考えるので、個々人の考えや意識を大切にしつつも、無理のない形で、組織の方向性を形づくっていけたと感じています。
― Your Verseのアプローチの特徴をどのように感じましたか?
古川様
組織の課題について議論すると、どうしても「あるべき論」が先行しがちな状況になります。しかしYour Verseのアプローチでは、そうした表層的な議論ではなく、JUKEが社会の中で発揮している本質的な価値や、それを生み出している源泉は何かという根幹部分を共有することができました。
この本質的な部分の共有認識ができたことが非常に大きな成果でした。そうした基盤ができたからこそ、「それをどう推進していくか」という具体的な話に自然に進むことができました。また、JUKEに集まっている仲間は皆、その本質的な価値に共感している人たちなので、それが共通言語となり、表面的な形式ではなく本質的な部分について対話できたことが良かったと思います。
杉原(Your Verse)
私は通常、コンサルタント的なアプローチをとることが多く、市場環境分析や戦略的ポートフォリオを提案するような仕事をしています。しかしYour Verseとして関わると、まずメンバー自身の思いや内省から始まるという特徴があります。
特に今回のようなNPOでは、皆が本当にやりたいことで集まっている組織だからこそ、その手法が効果的でした。本来の目的は課題解決というよりも、「自分たちが動くための背中を押してほしい」という部分にあったのではないかと感じています。
古川様
おっしゃる通りです。期待していたのは「コンサルティング」というよりは「場づくり」や「チームづくり」の部分でした。
― どのような組織がYour Verseのサービスに向いていると思いますか?
古川様
JUKEのように「オーナーシップを持つ人が少数から多数へ移行する段階」の組織に非常に適していると思います。形式上は役員などが複数いても、実質的なオーナーシップが一人に集中している組織は少なくありません。そうした組織でリーダーの思いが十分に共有されていない状況は珍しくないでしょう。
発言力が強い人がいる場合に、Your Verseのような第三者が客観的に入り、心理的安全性を確保しながらフラットな意見交換を促進することで、組織として何をすべきかを固めていく過程に大きな価値があります。
― 最後に、今回のプロジェクトを通して得られた気づきがあれば教えてください。
古川様
どういうチームにしていきたいかという共有認識と、心理的安全性の確保が非常に重要だと気づきました。安心して自分の考えや意見を述べられる環境がなければ、メンバーは消極的になり、本当の思いを表現できません。しかし興味や関心をリスクなく話せる心理的安全性の高い場では、自然と対話が生まれます。そうした環境がなければ「活動に意義を見出せずに離れていく」ということにもなりかねません。過去にそういった事例もあったため、安全な対話の場づくりが非常に重要だと再認識しました。
杉原(Your Verse)
古川さんが「みんなに楽しんでほしい」と言いつつも、「自分以外に運営を本気で任せることができない」と本音を語ってくれたことが大きな転機でした。JUKEを守り抜いてきた責任感と、それを持続可能にするための「メンバーが楽しむこと」の両立という方向性が共有され、各メンバーが自分なりの関わり方を見つけやすくなりました。
このように本音が共有されたことで、「ここまではできる」「ここは無理せず手伝ってほしい」といった率直なコミュニケーションが可能になり、組織としての一体感が生まれたのだと思います。
ありがとうございました。
